9th STEP 母、虫と闘う! 

 左:昆虫館にて 右:動物ふれあいコーナー   

 私の実家は四国だったので、虫はたくさんいました。

 中でも一番苦手だったのが、「家グモ」で、とにかく巨大なのです(だいたい体長10センチ以上)。
 これが出るともうパニックで、私は中高生になっても親を呼んでいました。

 私の父は他の虫なら退治してくれるのですが、このクモは父も嫌いで、たいてい母がしぶしぶやっつけてくれていました。「こんなのが何よ!」といつも平然とつぶしてくれる母のことを、すごい、と思っていました。

 私たちの住んでいる家は、転勤が多い関係でいつも賃貸です。
 今までかなりの回数引越ししましたが、北海道と東京都心以外、虫はゴキ○リを中心によく出ました。なかでも某市に住んでいたとき、古いアパートだったためか、ビックリするくらい「出た」のです。夜中のトイレでふんずけたこともあるし、這うより飛び回る、という変なゴキにも出会いました。

 いつもそういう時は主人に頼んでいました。
 不在のときもじっと帰宅まで耐えて、そして退治してもらうのです。

 子ども達が大きくなるにつれて、私が怖いから主人に頼む、という図式から、だんだんかわってきました。
 子ども達が怖がって、私に退治を頼みに来るのです。主人の助けを待てないから、私しかいないのです。

 しかし、子ども達が虫を怖がって大騒ぎをするのをみるにつけ、これではいけない! そう思いました。聖書が教える神さまの基本は「立ち向かいなさい!」だ! これではいけない、子どもたちに逃げることを覚えさせてはいけない…!

 それで私はいいます。

 「何をいってんの、虫のほうがみんなを怖いと思ってるんだよ、逃げちゃダメだ!」
 そう言いつつ、背筋に走る寒気と戦いつつ、私は新聞紙を丸めます。…ああ、このまま、虫のいない世界にいけたら、と気持ちが逃避しそうになるのをこらえて、丸めた新聞紙の硬さを慎重に確かめます。

 あまり躊躇すると、私が怖がっていることが子どもにばれるので(もうばれてるかもしれないけど)、「んー、角度が悪いなー」とか何とか言いながら、対決をひきのばす私。…しかし子どものまなざしが、ママに対する失望に代わりつつあるのをみて、決意し、えいやっと新聞紙を振りかざす…!!

 …及び腰なのがわざわいしてか、今まで成功したことは少ないのです。すぐ逃げられてしまう! しかし、子ども達は素直です。ゴキに近づいていく私を「ママってすごいー」と言ってくれるのです…。

 ふと、思いました。私の母も本当は虫退治が嫌いだったのかな、なんて。子ども(と私の父)を守るため、恐怖と闘ったのかな、なんて。

 しかし、今私は別の手立てを考えています。
 虫好きな長男をおだてて、いずれは虫退治係りになってもらおうと、思うのです。

 …ただ、越えなければならない壁があるようです。
 なめくじを「なめちゃん」と呼びかわいがり、部屋のあちこちに出没するだんご虫に「太郎・次郎」と名前をつけ家族扱いする長男の、曲がった博愛精神を正さないと、下手をすればゴキを愛ゆえに殺せない…、なんてことになるかも…。