22th STEP 嘘 

    公園の丘でごろごろ!

   

 私は、「嘘」に痛みが少なかったのかもしれない、そう思います。

 …小学生の頃だったと思います。
 仲の良い友達と2人、クラブの練習をサボりました。理由は他愛もないものでした。でもそれはなぜかおおごとになり、たくさんの友人や上級生が私たちを練習に戻ってくるように説得し始めたのです。私たちは適当に嘘をつきました。

 「…だから練習できない!」上級生たちは一生懸命話してくれます。…嘘はだんだんエスカレートしていきます。いかに辛かったか、こんなこともあって、こんなこともあって…。私たちはそのうち涙まで出てきて、本当に悲劇のヒロインの気持ちになっていって…。
 なぜ休んだか、今では忘れるほどのたいしたことのない理由。…今でも残っているのは、涙を流して悲劇に酔うような気持ちと、それをどこか遠くで見ているような違和感…。

 長男が大きくなっていき、だんだん知恵もついていきました。

 ある日、家族で車に乗っておもちゃ屋さんに向かっているときでした。長男が言うのです。
 「Nちゃん(妹)がぼくのズボンをぬらしたんだ。」

 見ると、長男のズボンは前の部分からずっとぬれています。聞くと、さっきトイレに行ったとき、手を洗っていると長女が割り込んできて水をこぼしたとのこと。…私は長女を叱り、割りこみはだめよ、ごめんなさいしなさい! と言いいました。
 でも長女は「やってないよ!」と言うのです。
 …あれ、そういえば長女とトイレ一緒だったけ? いろいろと状況を長男に聞くと、その状況はころころと変わるのです。「僕に水をかけてきた」「でもなんでパンツまでぬれてるの?」「Nちゃんがおしっこかけた」「一緒にトイレ入ってないでしょ?」「…でも…」

 ぴんときたのです。

 「…おもらししたんでしょ…? 正直に言いなさい」
 「でもNちゃんが…」

 ここで「雷」です。
 …ずっと言い訳し続けた結果、彼はおもちゃ屋さんで好きなものを選ぶ時間がなくなりました。

 それから長男の「嘘」がとても気になり始めたのです。
 …きっと私がいつも叱りすぎているから、それを恐れて嘘をつくのだろうと思います。それはとても反省すべきことで、そう考えると長男を追い詰めた私の責任を強く感じました。

 悔い改めると共に、どうしたらいいのかとても悩みました。…主人は「嘘は神さまを悲しませる罪だよ」と、聖書から何度も根気よく話してくれました。でも嘘が止まらないのです。

 今になってみると、子供はどうも「嘘」を普通よりよくついてしまう「時期」があるような気がします(私の少ない経験上なのでなんとも言えませんが…)。知恵がついてきたもののまだ善悪の感覚が弱い時期、そういう時期があるような…(心理学的なことはよくわかりませんが)。

 それにしても長男は性格的にもよく嘘の出る子でした。
 …私はとても悩みました。私のせいだ、とものすごく後悔したり、何度注意しても直らないことにいらいらしたり、怒鳴りすぎて自己嫌悪に陥ったり…。

 あるとき、じっくりと話しました。

 嘘は、嘘で隠さなくてはならなくなること。はじめの嘘は心が痛むけれど、その次の嘘は少し痛みが少なくなり、嘘をつけばつくほど、罪の痛みがなくなるんだ、ということ。その痛みは神さまのメッセージ。…心が病気にならないための、神さまの危険信号。…嘘で罪を隠したら、悔い改めてゆるされるっていう祝福が受けられない。それに罪を重ねると神さまの前に自分の本当の心がわからなくなるよ。本当は何をしてほしかったのか。自分のために、一番ほしいものを神さまの前で言えなくなるよ。嘘はね、誰かを傷つけるし、それに自分自身を傷つけるんだよ…。

 …私は嘘をよくつく子でした。
 長男は私に似ている。…私のようにはならないでほしい。簡単に嘘をつく私は自分にも嘘をつく。そのうちどれが本当かわからなくなる。…痛みの薄れた心。誰を傷つけても心が動かなくなったり。泣くこともないけど、感動もない。そんな心のフリーズ。

 神さまに出会ってからも、触れられたくない固まった心。どうして欲しいのかもわからない…。でも他人が祝福されていくのが、たまらなく悔しく、苦しい。…そんなずっと昔を思い出しました。

 「私はあなたの心を知っている。」

 その言葉を聖書の中に見つけたとき、私は枕をかぶって泣いたのです。
 …氷の解け始め。

 「悲しい」と「うれしい」がごっちゃになった気持ち。小さい駄々っ子のように。

 …きみはいつも素直な子でいてよ。
 神さまに心を隠さない子でいてね。心のサインをいつも見張って、悲しいときは「悲しい。でもそれも感謝します」と言えて、うれしいときは「うれしい! だから感謝します」と言える子でいて欲しい。神さまのところで何も隠さないでいられることほど、幸せなことはないでしょう? すべてを受け取ってくださる神さまの前で、すべてを手放しで差し出せることの幸せ。辛いときも、うれしいときもそれを感じて欲しい。心を大事にする子になって…。そういう思いを込めて。

 話の後、長男は泣きました。神さまのことわからなくなるのいやだ、と言って。

 …この間、寝る前、長男が言ったのです。
 「僕ね、最近嘘つかないことにしてるんだ。そしたら、学校が楽しくなってきた」

 先生が怖くなくなった、と言うのです(長男はクラスの叱られ筆頭なもので…!)。…よかったね、というと、うん、と言って寝ました。

 …これから、もっといろいろあるだろうけど、その感動を忘れないで、どんどん大きくなっていってください!